橋上駅化後も生き残った古レール。
2010/07/02 公開。
西武鉄道池袋線の大泉学園駅である。同線初期開業の 9 年後の 1924 (大正 13) 年 11 月 1 日に開業であり、駅名の雰囲気から察しにくいが歴史ある駅である。ちなみに、開業当時は東大泉駅と名乗っていた。その後現在の駅名へと 1933 (昭和 8) 年 3 月 1 日に改称されている。
現在、『大泉学園』という名称の学校は駅周辺には存在していない。しかし小中学校や高校をはじめ多く存在しておりまるでこれらの総称のような雰囲気であるが、元々練馬大根の栽培が盛んで一面の畑だったこの地区を大学誘致を核とした学園都市へと変貌させることを目論んでいたのである。
これは現在の西武鉄道関連の会社として存在していた箱根土地会社による開発であり、同社では他にも国立駅周辺や小平駅周辺で同様の開発を行っている。
同駅は現在橋上駅となっているが、以前は地平に駅舎があった。1983 (昭和 58) 年 11 月 12 日より橋上駅として供用を開始した。既にこの年代ではホーム上屋等に古レールは用いられなくなっているが、同駅では現在もホーム上屋の一部に残されている。
恐らく橋上駅舎化工事において、支障のない範囲のホーム上屋は以前のまま残置したものと考えられる。
調査日:2008/11/09
全景である。どういう理由か定かではないが、同駅でのホーム上屋の古レールはいわゆる一本柱のやじろべえタイプではなく、柱が二本で長辺方向にトラス桁を含む JR 東日本の山手線等に見られるものに近いタイプとなっている。
ちなみに、この柱より手前側(所沢方)は通常の形鋼による架構となっているため後年の延伸部分と思われる。
今回発見した刻印は以下の通り。現地では WENDEL が圧倒的に多い印象であった。
No | 刻印 | 場所 | 備考 |
---|---|---|---|
1 | R △ .9.1925.60LBS A.S.C.E 6040 | ホーム上屋 | レオン工場、ベルギー プロビデンス社、925 年 9 月製造、60LbS / yd、アメリカ土木学会規格コード番号 6040 |
2 | G.H.H.1926 | ホーム上屋 | ドイツ グーテ・ホフヌングス製鉄所、1926 年製造 |
3 | (S) 60 A 1925 I | ホーム上屋 | 官営八幡製鉄、60LbS / yd、1925 年 1 月製造 |
4 | H-WENDEL X 1924 75LBS ASCE TB | ホーム上屋 | フランス ウェンデル社、1924 年 10 月製造、75LbS / yd、アメリカ土木学会規格、トーマス転炉・ベッセマー転炉製鋼法(詳細不明) |
5 | H-W-60LBS-ASCE-XI-1925 | ホーム上屋 | フランス ウェンデル社、60LbS / yd、アメリカ土木学会規格、1925 年 11 月製造 |
橋上駅舎化にもかかわらず古レールによるホーム上屋が残されているのは私のような者にとっては非常に喜ばしいことと感じられる。今回取り上げた大泉学園駅の場合は昭和 58 年という工事のタイミングによるものが大きいかも知れない。
平成のご時世においては駅改良工事ましてや橋上駅舎化となればホーム上屋も根こそぎ型鋼へ作り替えられる可能性が高い。また、近年多く実施されている路線自体や駅全体の高架化の場合は残置は絶望的となる。
かつてレールが外国の輸入に頼っていた時代の名残りとして貴重な産業遺産である古レールは少しでも多く残しておきたいと思う。現実にはそうはいかず急速に数を減らしているため、このように写真に残そうとしている。
ただ、西武鉄道は比較的古レールの保存に前向きであり、同じく池袋線の東長崎駅、中村橋駅において『第三の人生』を歩む古レールを観察することができる。ぜひご覧頂きたい。