水道橋はその名の通り水の道。
2009/12/13 DeepZoomPix サービス停止に備え該当画像を通常の写真に変更しました。
2009/06/30 公開。
水道橋。その名は読んで字のごとしで今回取り上げる水道橋駅のすぐ北を流れる江戸城の外濠に架かっていた神田上水の掛桶(木製水路)に由来するそうである。そもそもはその水路橋こそが『水道橋』であり、現在の自動車も通行可能な『水道橋』は元々は『吉祥寺橋』と呼ばれた別の橋だったとのことである。
同駅も以前取りあげた四ツ谷駅、飯田橋駅同様江戸城の外濠沿いに設けられ、外濠の横の崖を削って線路が敷かれた区間である。開業は甲武鉄道の駅として 1906 (明治 39) 年 9 月 24 日であり、その一週間後の 10 月 1 日に国有化され、現在に至っている。つまり、さりげなく 100 年を超える歴史を持つ駅なのである。
同駅の外濠を挟んだ北側には現在東京ドームや小石川後楽園がありレジャーや憩いの場としてのイメージが強いが、もともとその場所は旧陸軍砲兵工廠跡地であり、軍事拠点のひとつであった。仮に外濠がなければ同駅より引込線の類が敷設され軍需輸送が実施されたかも知れない。
写りが良くないが、1932 (昭和 7) 年発行の旧版地形図にはその工廠が『東京工廠』として記載されている。
出展:国土地理院 1/25,000 地形図「東京首部」(S07/06/25 発行)※管理人一部加工
調査日:2007/04/21、2008/05/11
同駅ホーム上屋に使用されている古レール架構は、中央本線の山手線内区域の中でもピカイチのオリジナリティあふれるデザインと言えるだろう。曲線で構成された美しいものである。
その曲線は対向式の向かい側ホームに連続するかのようである。実際は写真の通り接続されてはいないが。
そして横から見てもやはり直線だけでなく曲線も含まれ、設計者の心意気というか限られた状況下でのこだわりを垣間見る気がする。
ちなみに、この曲線で構成された古レール柱による上屋部分は後年の増設部分のようであり、以前より存在する部分は全く異なる架構となっており、これまた独特の形態である。こちらは先ほどと異なりホーム端部に柱がなく旅客の乗降に支障のない優れたものと言えよう。では、なぜ後年のほうが乗降に支障の出やすい形態となったのかが疑問である。
そして、この架構は 1937 (昭和 12) 年発行の『鐡道工学』の停車場に関する記述の中で以下のように紹介されている。同書は土木学会のデジタルアーカイブスにて PDF 形式にて閲覧、ダウンロードが可能なので当報告書巻末のリンクよりぜひご覧頂きたい。
この線路中央に居並ぶ古レール列柱は航空写真からも確認できる。上の写真では分からないが上空から見ると一部の列柱間は補強材のようなものでつながっていることが分かる。航空写真は以下のリンクよりご覧頂きたい。
また、何がわかるという訳ではないが 1947 (昭和 22) 年米軍撮影の航空写真も参考にご覧頂きたい。同駅御茶ノ水方には冒頭で紹介したホーム上屋延長部の屋根の色が異なるのが確認できる。
今回発見した刻印は以下の通り。古レール自体の使用量はそこそこあるが、例によって首都圏の標準仕様であるが同駅での古レールへの塗装も比較的厚く、刻印の判読は困難を伴う。以下に取り上げた以外にも刻印は存在するかも知れない。また、今回も刻印が不鮮明なものも敢えて紹介したい。
No | 刻印 | 場所 | 備考 |
---|---|---|---|
1 | CAMMELL SHEFFIELD TOUGHENED STEEL W.1888.SEC (以降不明瞭) | ホーム上屋 | イギリス キャンメル社 強化鉄(※商品名) 1888 年製造 セクション番号不明 |
2 | BARROW STEEL SEC166 1893. I.R.J | ホーム上屋 | イギリス バーロウ社 セクション番号 166 1893 年製造 鉄道局発注 |
3 | CAMMELL SHEFFIELD TOUGHENED STEEL W.1886.SEC (以降不明瞭) | ホーム上屋 | イギリス キャンメル社 強化鉄(※商品名) 1886 年製造 セクション番号不明 |
4 | UNION D 1886 N.T.K. | ホーム上屋 | ドイツ ウニオン社 1886 年製造 日本鉄道(?)発注 |
5 | CARNEGIE 1900 (以降確認不可) | ホーム上屋 | アメリカ カーネギー社 1900 年製造 |
6 | (S) NO 60 B 1905 VII | ホーム上屋 | 60LbS / yd 第二種、官営八幡製鉄 1905 年 7 月製造 |
7 | UNION D 1885 N.T.K. | ホーム上屋 | ドイツ ウニオン社 1885 年製造 日本鉄道(?)発注 |
8 | BARROW STEEL SEC166 (確認不可). I.R.J | ホーム上屋 | イギリス バーロウ社 セクション番号 166 製造年不明 鉄道局発注 |
9 | UNION D 1885 I.R.J. | ホーム上屋 | ドイツ ウニオン社 1885 年製造 鉄道作業局発注 |
10 | ※不明 | ホーム上屋 | ※CAMMELL ? |
11 | BARROW STEEL SEC166 (以降確認不可) | ホーム上屋 | イギリス バーロウ社 セクション番号 166 |
12 | UNION D 1886 (以降確認不可) | ホーム上屋 | ドイツ ウニオン社 1886 年製造 |
13 | BARROW STEEL SEC166 (以降不明瞭) | ホーム上屋 | イギリス バーロウ社 セクション番号 166 |
同駅の古レール架構はこれまで当サイトで紹介した中では珍しい形態に属するものと言えるし今後も末永く残して欲しいものであるが、実は首都圏においては意外に他にも特徴的な架構の古レールを見ることが可能である。下の参考文献で取りあげた『鐡道工学』にもいくつか首都圏の駅のホーム上屋について図面で示されている他の駅についても今後現地調査を進める予定である。
また、水道橋駅付近にはホームの古レールだけでなく、1904 (明治 37) 年と銘打たれたプレートガーダー橋である『新水道橋架道橋』もあり、今後何らかの形で紹介したい。冒頭でふれたようにこれはここに最初に線路を敷設した甲武鉄道時代の開業当時の構造物であり非常に歴史的価値も高く土木学会の『歴史的鋼橋』に選定されている。