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東京急行電鉄多摩川線旧線【矢口渡~蒲田】

東急発祥路線の終点である蒲田駅へのアプローチはかつては現在とは異なっていた。

2007/01/07 公開。

概要

今となっては東急の路線の中でも営業キロ数5.6kmと短距離路線となった東急多摩川線であるが、実は東急の発祥路線である。ちなみに「多摩川線」という路線名はここで取り上げる東急の路線を指す場合は不正確であり、珍しい例とも言えるが「東急多摩川線」が正式路線名である。つまり、「東急」の「東急多摩川線」である。

ただし、以前よりこの路線を知っている方にとっては「目蒲線」という路線名の方がしっくりくるかも知れない。

ここでは、全区間が東京都23区内である大田区にありながら全列車が3両ワンマンで運行されている。目蒲線時代は4両だった。営業キロが短いだけでなく編成長も短いのである。これは開業時期が大正時代であることや運行車両を共有している池上線の開業もさらに早かったため、現在の長大編成を考慮していなかったことにも由来すると思われる。

今回の調査対象である矢口渡~蒲田間にはこの短い路線中唯一の線路切替による廃線区間及び廃止駅が存在する。

現在腺は旧線は多摩川方面から蒲田駅に対してJRの線路とほぼ直角方向に接続しているが、旧線は矢口渡駅より少し蒲田寄りで南側に大きく迂回しJRの線路と平行に接続していた。つまり、当初は池上線と別のアプローチで蒲田駅に接続していたのである。これは元々池上線の前身が池上電気鉄道、東急多摩川線の前身が目黒蒲田電鉄という別会社であったことに由来する。

この線路切替により途中に一駅だけ存在した道塚駅が旧線もろとも廃止されている。道塚駅は開業当初は本門寺道駅と呼ばれ、その名の通り池上本門寺への参拝客のために設置されたとしたら毎年一回行われる池上本門寺のお会式の時期はさぞかし賑わったであろう。

終戦後蒲田駅の再開発に際し、池上線と多摩川(当時は目蒲)線の線路改良もあわせて実施され両線ともに蒲田駅に国鉄の線路と直角に接続し、なおかつ高架化された。

改良当初は池上線と目蒲線がそれぞれ複線で蒲田駅を目指し、駅直前でそれぞれが単線となった上で駅に進入していたようである。

廃止から実に60年以上が経過した旧線区間を矢口渡側より調査した。

調査日:2006/05/03、2006/08/06、2007/05/03

沿革

年月日 事象
1923/03/11 目黒蒲田電鉄(目蒲電鉄)目黒線として目黒~丸子(現沼部)間開業。
1923/11/01 丸子~蒲田間開業(全通)。目蒲線に改称。
1925/10/12 矢口(現矢口渡)~蒲田間に本門寺道駅(仮駅)開業。
1930/05/21 矢口駅を矢口渡駅に改称。
1936/01/01 本門寺道駅(仮駅)を道塚駅に改称。
1945/06/01 矢口渡~道塚~蒲田間休止(1946 年廃止)。
1945/08/14 矢口渡~蒲田間の新線開業。
2000/08/06 多摩川~蒲田間を分離し、東急多摩川線に改称。

地図

調査対象区間の道路地図である。今回の調査は図中の「線路切替区間」を対象とした。

東京急行電鉄東急多摩川線旧線【矢口渡~蒲田】旧線跡地に建つ『猫の国』

さらに、旧線区間が写っている時代の航空写真をご覧頂きたい。これを見るとはっきりと旧線と現在線の位置関係が読み取れる。

東京急行電鉄東急多摩川線旧線【矢口渡~蒲田】調査対象区間航空写真

出展:国土地理院航空写真(地区:川崎、コース:M452-A、番号:67、撮影機関:米軍、撮影日:1947/09/08、形式:白黒)※管理人一部加工

さらにもうひとつ。昭和 7 年発行の地形図にも当然であるが旧線が描かれている。ここでは JR 蒲田駅の西側に東急蒲田駅が寄り添っており、JR蒲田駅西側広場に豪快に駅が設置されていることや既に池上線と駅舎を共有していることや道塚駅が改称前の本門寺道駅であること、矢口渡も改称前の矢口であることが読み取れる(※字は右から左へ読む)。

東京急行電鉄東急多摩川線旧線【矢口渡~蒲田】調査対象区間旧版地形図

出展:国土地理院 1/25,000 地形図「川崎」(S7/10/30 発行)※管理人一部加工

調査結果

矢口渡~道塚

下の道路地図で旧線残存区間と記した範囲では驚くべきことに旧線の跡地がそのまま宅地化されている。その下の大きな道路は環状八号線であり、前掲の航空写真ではまだなく、前身となる細々とした道路が写っている。

東京急行電鉄東急多摩川線旧線【矢口渡~蒲田】矢口渡~道塚(廃止)道路地図

さらに、Google Earth の該当地点では以下の通り旧線跡に立ち並ぶ住宅の様子がさらにはっきり確認できる。

東京急行電鉄東急多摩川線旧線【矢口渡~蒲田】矢口渡~道塚(廃止) Google Earth

新旧分岐地点は旧線跡と思われる敷地境界柵を見ることができる。現在線との空隙地は下草の刈られた草地となっている。しかしこの空隙地は写真にも写っている手前の柵までで終わってしまい、それ以降蒲田寄りは住宅地と化す。

東京急行電鉄東急多摩川線旧線【矢口渡~蒲田】分岐点より多摩川方面を望む

2007/05/03 に同地点を再訪して、上の写真より少し蒲田方から見る。現在線との分岐の雰囲気がさらに明瞭である。

東京急行電鉄東急多摩川線旧線【矢口渡~蒲田】分岐点より多摩川方面を望む

分岐点から蒲田方面はまず駐車場となっており、続けて住宅地が続く。左側が現在線。決してマイホーム(死語)とマイカー(死語)の記念写真ではない。

上に示した住宅地図中「旧線跡残存区間」の最も多摩川寄りの地点より蒲田方面を見たものである。地図でも判別可能であるが分岐点のすぐ脇の空白が駐車場でありその隣に現在線と平行に二軒程住宅が示されており、多摩川寄りのの一軒がこの写真の白い住宅である。

東京急行電鉄東急多摩川線旧線【矢口渡~蒲田】分岐点より蒲田方面を望む

白い住宅の脇の路地を蒲田方面に進むと旧線の線形をトレースした住宅地の並びを確認することができる。奥に見える斜めに並ぶ住宅がそれである。

東京急行電鉄東急多摩川線旧線【矢口渡~蒲田】旧線跡地に建つ住宅

住宅地図の通り旧線跡は一直線に住宅地となっている(写真左側)。この辺りは恐らくかつての路盤幅がそのまま宅地幅となったからと考えられるが、ここをかつて電車が走っていたと想像すると不思議な感じである。国土地理院発行のこのページに載せたものよりさらに古い旧版地形図によると、開業当時は田んぼと畑が広がるのどかな風景が広がっていたであろう。

現在旧線跡に建つ住宅の住民は自分の敷地がかつての鉄道敷であったことをご存知なのだろうか。

東京急行電鉄東急多摩川線旧線【矢口渡~蒲田】旧線跡地に建つ住宅

旧線跡残存区間のほぼ中央の南北に貫く路地と旧線跡との交差点を少し蒲田寄りに進んだ地点より振り返る。旧線跡(右側の住宅の列)に寄り添うこの路地は住宅に阻まれここで行き止まりとなる。これより先蒲田までは住宅の列自体は続いているがその様子を直接見渡すことは不可能であった。

東京急行電鉄東急多摩川線旧線【矢口渡~蒲田】旧線跡地に建つ住宅

道道塚駅跡のそばの南北に貫く都道から多摩川方面を見ると、現在の建物の形が旧線跡に沿って道路に対して斜めになっていることが分かる(猫の国)。これが旧線跡の名残として確認できる最後の光景である。またこれまでの区間で敷地境界標等も見かけることはなかった。

東京急行電鉄東急多摩川線旧線【矢口渡~蒲田】旧線跡地に建つ『猫の国』

2006 年 8 月 6 日に上の写真の地点をたまたま再訪した際、既にそこに『猫の国』はなかった。

東京急行電鉄東急多摩川線旧線【矢口渡~蒲田】旧線跡地に建つ『猫の国』の残骸

道塚~蒲田

上記地図で明らかな通り、本区間は廃止後の区画整理(実施時期不明)によって線形が失われており、痕跡を探し出すことは不可能であった。従って残念ながらこの区間の調査は断念した。

総評

痕跡を調査可能な範囲はごく限られた範囲であるが、都心でしかも使用停止後60年以上が経過していることを考えれば痕跡を少しでも感じることができることは奇跡とも言える。

今回現地調査の中で道塚駅跡近くの某そば屋さんも実食調査することとなったが、ここのご主人より重要な供述を得ることができた。それは、そのそば屋の場所こそがなんとプラットホーム跡だったとのこと。また斜め向かいのマンションからは工事の際枕木等が大量に出土したとのこと。

しかし、実は疑問がひとつ発生することになる。このそば屋さんは実は上に示した旧版地形図を参考にプロットした住宅地図での道塚駅跡とは異なる場所にある。なのにプラットホーム跡とはどういうことなのか。もしご主人の証言が正しければ旧版地形図での道塚駅跡の位置が誤っている可能性もあり得る(ただの私の勘違いもあり得る)。ここは今後の継続検討課題としたい。道塚駅の正確な位置の特定を試みたい。また実は同駅の改称前の本門寺道駅も道塚駅になる前は場所が異なっているらしく、この場所の特定もあわせて特定したい。情報等お持ちの方はメールにてお知らせ頂きたい。

ところで、このまいうーなおそば屋さんがどこにあるのかは現地調査をして確かめて頂きたい(場所はここでは秘密)。やはりそば屋さんの天ぷらはうまいと思う。

なお、同線全区間【多摩川~蒲田】の前面展望動画を撮影したのでご覧頂きたい。本報告書で取り上げた旧線の分岐点はお分かり頂けるだろうか。

参考文献等


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