駅舎橋上化で失われると思われる古レール。
2010/03/10 公開。
西武鉄道池袋線の椎名町駅は現在各駅停車の列車のみが停車する小ぢんまりとした印象の駅であるが、開業は前身の武蔵野鉄道により 1924 (大正 13) 年 6 月 11 日であり、既に 80 年以上の歴史を持つ駅である。ただし同線自体の最初の開業は 9 年前であり、後の開業である。
椎名町という町名自体は既になく、駅名と周辺に何らかの名称の一部として残るのみである。これにはあの帝銀事件の舞台となってしまったために、この町名が忌み嫌われてしまったためとのことである。
確かに当時の地元の方にとっては忌ま忌ましい事件の舞台としてばかりこの地名が知れ渡るのは耐えられなかったであろう。だが、個人的には事件そのものと地名は直接的には関係ないと思うし、古くからの地名を手放すとは大変な思いだったのではないかと想像する。
ただ、幸か不幸かそこに鉄道駅があったおかげで歴史ある地名を今に残してくれたのである。現在では地名こそないものの、駅周辺は椎名町と一般に呼ばれておりまさしく地名のようである。多くの地名が失われた地域も多い中、これは貴重な出来事だと思う。
西武鉄道の路線は私鉄としては比較的都心でも地平区間が多く、また古レールのホーム上屋等が多く残る路線としても有名であるが、近年は急速に駅の改良が進み、古レールは失われる一方である。
ちなみに、なぜか古レールと言えば池袋線が何故か有名のようであるが、個人的には新宿線も負けてないぞと声を大にして言いたいところである。当報告書執筆直前より新宿線の調査も開始したため追々紹介していきたい。
池袋線も現在石神井公園駅周辺での高架化等の大規模な改良工事が進行中であり、残念ながら古レールも今まさに失われようとしている最中である。今回取り上げる椎名町駅もまもなく橋上化されるため、ホーム上屋の古レールは予断を許さない状況である。ちなみに跨線橋は通常の鉄骨によるものであり、古レールではない。
調査日:2008/05/04
同駅のホーム上屋の古レールは西武鉄道標準仕様とも言うべきやじろべえ型の柱による架構である。屋根材は後年の改修されたと思われるがスレートとなっている。
なお、右端にわずかにしか写っていないが前述の通り跨線橋は古レールではない。以前は古レールの跨線橋が存在したのか、それともそもそも跨線橋はなかったのか等の情報は持ち合わせていない。もしも、『古レールの跨線橋だった』等の情報をお持ちの方は情報を頂けると幸いである。
やじろべえ型の柱を見る。一番手前の柱は後年のホーム延伸に伴なうものと思われ、古レールではなく形鋼(俗に言う『C チャン』)によるものである。個人的には最近の小奇麗なホームよりもこのような雰囲気のほうが『駅』という感じがとてもあり、好ましい。
同ホームを逆側から見る。同駅は都心の駅でありながらホーム上にごてごてとモノがなく非常にすっきりした印象である。同駅は 2 面 2 線のホームであるが 2 面とも全く同様の古レール架構である。
橋上化が完了すると随分と雰囲気は変わってしまうと思われるが、この古レールの上屋もホーム下部の万代塀も軽快な鉄骨にとって変わられるのだろうか。
私はあまり鉄道車両の写真は撮らないが、たまたまホームに滑り込んで来たので古レールと記念撮影となった。近い将来この写真は『地平駅時代の椎名町駅』の記録となるだろう。と言っても古レール以外あまり駅そのものが写っていないが。
調子に乗ってもう一枚古レールと車両とのツーショットである。私は沿線住民ではないため普段西武線をあまり利用しないが、古レールのホーム上屋にはこのような旧世代の車両のほうが何となく懐かしく感じられるし、よく似合う。
今回発見した刻印は以下の通り。比較的小規模の駅にもかかわらず豊富な種類のレールが使用されている。
No | 刻印 | 場所 | 備考 |
---|---|---|---|
1 | CAMMELLS STEEL W4 1896.S.T.K. SEC461 | ホーム上屋 | イギリス キャンメル社、1896 年製造、山陽鉄道発注、セクション番号 461 |
2 | OH TENNESSEE-6040-ASCE-1-1924 | ホーム上屋 | 平炉製鋼法、アメリカ US スチール・テネシー社、コード番号 6040、アメリカ土木学会規格、1924 年 1 月製造 |
3 | G.H.H.1926 | ホーム上屋 | ドイツ グーテ・ホフヌングス製鉄所、1926 年製造 ※『1926』の 2 の刻印が微妙に異なる 2 本を掲載 |
4 | (← 60 ※撮影失敗)LBS ASCE → TREB I 26 | ホーム上屋 | 60LbS / yd、アメリカ土木学会規格、ルクセンブルク テレス・ルージュ鉄鋼社、1926 年 1 月製造 |
5 | KROLHUTA 1928 M □(11) ASCE | ホーム上屋 | ポーランド、クロレウスカ・フータ社、1928 年 11 月製造、ジーメンス・マルチン製鋼法、アメリカ土木学会規格 |
6 | KROLHUTA 1927 M | ホーム上屋 | ポーランド、クロレウスカ・フータ社、1927 年製造、ジーメンス・マルチン製鋼法 |
7 | (S) 60 A 1929 I | ホーム上屋 | 官営八幡製鉄、60LbS / yd、1929 年 1 月製造 |
8 | BARROW STEEL SEC166 1893. K.R.C. | ホーム上屋 | イギリス バーロウ社、セクション番号 166、1893 年製造、甲武鉄道発注 |
9 | BARROW STEEL SEC166 1894. N.T.K. | ホーム上屋 | イギリス バーロウ社、セクション番号 166、1894 年製造、日本鉄道発注 |
10 | CARNEGIE 1900 ET IIIIII 工 | ホーム上屋 | アメリカ カーネギー社、1900 年 6 月製造、エドガー・トムソン工場製造、官営鉄道発注 |
11 | UNION 1903.I.R.J. | ホーム上屋 | ドイツ ウニオン社、1903 年製造、鉄道作業局発注 |
12 | (※不明瞭) 1902 I J R | ホーム上屋 | (※不明瞭)、1902 年製造、鉄道作業局発注 |
13 | H-W-60LBS-ASCE-XI-1925 | ホーム上屋 | フランス ウェンデル社、1925 年 11 月製造、60LbS / yd、アメリカ土木学会規格 |
※上下の写真で『2』のフォントの違いに注目(塗装の影響でそう見えるだけかも知れない)
冒頭にも触れた通り椎名町駅は橋上化される予定であるが、当報告書執筆時点(2010 年 3 月)ではまだ実際の工事は始まっていないため、古レールについて未調査の方は今のうちである。かく言う私も現地調査後に橋上化の計画を知ったため、駅舎自体の記録のため再訪しようと考えている。
また同駅のすぐ近くにある長崎神社境内には『長崎神社前停車場開設記念碑』が鎮座しており、これについても調査済みであるのでいずれ報告書を公開する予定である。ちなみにその調査の際に気がついたが、駅を出てすぐの立ち食いそば屋が非常に気になっている。私は西日本育ちのうどん党なので同駅再訪時にはそこでうどんを調査するつもりであるが、有益な情報をお持ちの方はぜひコメント頂きたい。
さらに、隣の池袋駅との間にはかつて『上り屋敷駅』という駅が戦時中まで営業をしていた。これも調査済みなので別途紹介したい。
このように意外に周辺に見どころの多い駅なのである。都心からのアクセスもいい駅でもあるのでぜひ橋上化の前に訪れて欲しい。