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古レール JR 東日本山田線【浅岸駅】

深い山の中なのに浅い岸という名の駅の古レール。

2009/12/12 公開。

概要

JR 東日本山田線のうち山岳区間である盛岡~宮古間にある浅岸駅はかつて隣の大志田駅と共にスイッチバックを備えていた。開業は 1928 (昭和 3) 年 9 月 25 日であり、既に 80 年以上の歴史のある駅である。

スイッチバックの撤去は 1982 (昭和 57) 年 11 月 25 日であり、開業より実に 50 年以上において同駅に停車する列車はスイッチバックを使用していたのである。個人的には筑豊育ちということもあり、西武鉄道飯能駅や JR 東日本青森駅のような都市型スイッチバックではなく、このような山岳区間のスイッチバックは箱根登山鉄道くらいしか乗車経験がなく、近年では数を減らす一方の本格的な規格の路線のスイッチバックを堪能してみたい。

このスイッチバック廃止に伴い、かつての本線上に新たにホームと待合室が設けられ、それが現在も存在している。なお、同時に無人化されたため駅舎は撤去され現存しない。

同駅は静かな山間部に存在するが、秘境駅などというジャンルにおいてつとに有名である(以前にも述べたが私はこの表現に対しては否定的である)。理由は簡単である。まず山田線の運行本数が少ないため列車で訪れるにも時刻表との闘いになるし、車に訪れるのにも幹線道路から遠く離れており、時間のかかる山道を延々走る必要があるからである。さらに言えば駅周辺にはほとんど民家が存在しない。

今回私は自動車で国道 106 号区界峠の少し盛岡よりから分岐する林道を経由して同駅へ向かったが、すれ違う車もほとんどない山道である。これは山田線は宮古を出発後、盛岡を目指し閉伊川及び国道 106 号に沿って西へ向かう途中、高低差が大きく鉄道を通すことが不可能な区界峠を境に北側にある米内川の川筋に移動するためいくつかの長大トンネルを伴ない中津川沿いに豪快に北上するが、浅岸駅はその閉伊川と米内川とのおよそ中間とも言える場所にあり、周辺は山深くわずかな集落が点在する程度のためである。

なお、道中は一部路面状態のあまりよくない未舗装区間が存在するので訪れる際は注意して頂きたい。

同駅ではホーム下部構造に古レールが使用されている。なお、本報告書は以下の総合調査の調査対象である。

調査日:2007/09/26

調査結果

架構

同駅は前述の通り駅舎は存在せず、ホームと待合室のみとなっている。写真は宮古方面を望んでいるが、駅の部分は比較的平坦なのに対し画面奥ではさらなる勾配が始まっているのがお分かり頂けるだろう。かつては画面奥に右側に分岐し駅に侵入する線路と、撮影地点の背後より左後ろに分岐する引込線とが存在するスイッチバックだったのである。

JR 東日本山田線【浅岸駅】全景

逆に盛岡方面を望む。画面奥では線路が見えなくなっているがこれも急勾配によるものである。その急勾配が始まる付近より画面右奥に引込線が存在していた。

古レールについて写真ではかなり見えにくいが、ホームの床板を直接支える長辺(線路)方向の梁として使用されている。なお、それより下部については全て木造である。

JR 東日本山田線【浅岸駅】全景

ホーム端部である。ここから見ると古レールが使用されていることが明瞭となる。なお、その他の木材は古枕木であり、なんとレールと枕木という路盤上の構成要素のみによってホームの基本的架構が作られているのである。これらの部材は第二の人生を引き続き鉄道の世界で過ごしているのである。素晴らしい。

JR 東日本山田線【浅岸駅】古レール架構

またその作りも素朴である。番線や犬釘、かすがいというおよそ森林鉄道を彷彿とさせるようなまことに山間部にふさわしいものである。

JR 東日本山田線【浅岸駅】古レール架構

刻印

今回発見した刻印は以下の通り。ホーム下部は比較的調査が困難であることと時間的な制約上これ以上の調査が不可能であったが、実際にはさらに存在する可能性もある。

No 刻印 場所 備考
1 40NOH <S> 1966 IIIIIIIIIIII ホーム下部 40kg / m、平炉製鋼法、八幡製鉄 1966 年 12 月製造

No.1

JR 東日本山田線【浅岸駅】古レール刻印

総評

同駅は前述の通り元スイッチバック駅であり、訪れた主目的はこのスイッチバックの痕跡を確かめに行くことだった。しかし時間的な制約の中で盛岡方の引込線については植物の繁茂が認められたこともあり断念しつつ、しばしこの長閑な雰囲気を味わっていた時に偶然ホーム下部にある古レールに気がついたのである。

同ホームの設置が比較的近年であるため、H 形鋼もしくはアングル等で組まれることが多いこの手のホームにおいて古レールと古枕木という構成は実に新鮮であった。ただ、当然と言えば当然であるが用いられている古レールも比較的近年製造のものであるようで、いわゆる歴史的な骨董品が埋もれている可能性は低い。ただ、建設年代からして特異な例ではないかと考え今回取り上げた。

なお、スイッチバック跡やその他駅周辺の探訪及び区界峠からの道中の林道の走行動画も撮影しているので別途報告書等で紹介したい。

また、同線の前面展望動画は共同撮影者の管理する以下のページにて公開しているので、あわせてご覧頂きたい。

さらにはこの再生リストにも含まれているが、今回浅岸駅を訪れたのが現在山田線で運用されているキハ 110 系の導入直前であり、偶然試運転列車と遭遇したため共同撮影者と共に慌てて動画を撮影した。まるで準備していたように見えるが、これははるか手前からのエンジン音により列車の到着に早く気がついたために過ぎない。後半部分に盛岡方のかつてのスイッチバック時代の引込線跡が分かりやすく写っている。

参考文献等


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